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お勉強ノート あるいは、未来の自分へ向けた経過報告

お勉強のためのメモです。主なコンテンツは京都新聞の社説と心理学関係書籍の縮約、英文教科書の和訳です。目指しているのは「チャーリー・ゴードンの『経過報告』」。

第1章 信頼のパラドックス(1)

山岸俊男「信頼の構造」縮約

第1章 信頼のパラドックス(1)
(原文:3343字 縮約:1109字)
 人間が社会的存在として生きていく上での「信頼」の重要性は、どれほど強調してもしすぎることはない。
 これに対して、「私は他人をまったく信頼していない」と言う人もいるだろう。しかしそういった人も、実は自分で考えているよりもずっと他人を信頼しているはずである。
 例えばレンタカーを借りる場面を考えてみよう。多くの人はレンタカーを借りるにあたって、契約書の一言一句を余すことなく熟読し、完全に理解できない語句の解釈について納得のゆくまで説明を求めはしないだろう。レンタカー会社を「信頼して」、契約書の内容を熟読しないまま、あるいは目を通しさえしないまま契約している人が多いだろう。これに対して「不信さん」は、契約書の内容を詳細に検討する。レンタカーを1日借りるために何時間も何日も契約書と格闘する「不信さん」の人生は、どう考えても豊かな人生とは言えない。
 信頼の欠如は社会的にも巨大な無駄を生み出す。
 例えば筆者が研究に必要な本を購入するために、現在の規則では学部の事務官が特定の取次店を通して発注することになっている。この方法では、海外で割引価格で購入してた場合の、2倍あるいは3倍以上の価格となる。また、発注してから手に入るまでにヘタをすると1年以上かかってしまう。規則に従うことで、研究費の半分、あるいはそれ以上が無駄になってしまっている。
 この種の無駄は、不信が生み出した無駄である。細かな規則が存在するのは、自由に研究費を使わせれば、研究費を個人的な目的のために流用してしまう者がいるだろうという不信が存在しているからであり、国民は、規則の強制によって研究費の使い方に無駄を強制することで、この不信のつけを支払っていることになる。
 一般にお役所仕事は非効率的で、その原因は役人の怠慢にあると思われているが、無限とも思えるほどの煩雑な規則によって非効率性を強制されている点も見逃すべきではない。つまり国民は、役人を信頼しないことで巨大な無駄を生み出している。すべての人間が信頼に値するよう身を謹んで行動している社会、そして誰もが他人を信頼している社会では、このような規則の生み出す無駄は存在しないはずである。
 信頼は、社会科学や人間科学のほとんどすべての分野で研究されている。しかし、にもかかわらず、信頼についての研究の現状は不十分な状態にあると言わざるをえない。
 本書ではまず、信頼に関する「3つのパラドックス」についての紹介をする。そして次の第2章では、これらのパラドックスの意味を理解するための準備作業として、信頼に関する概念的な整理を行い、残りの章で、これらのパラドックスの意味を明らかにするための理論と実証研究の紹介をする。